接種ワクチンの優先順位:現地であらかじめ接種を要求されているワクチン、例えば黄熱のように現地の状況により採用が決定されたものについては、原則として接種を受けなくてはならない(受けざるを得ない)。小児に対しては、原則として前述の6種類のEPIワクチンの接種を最優先とする。大人を含む年長者であっても、旅行者がこれらの基本的なワクチンを接種していない場合には、極力接種を済ませておいた方がよい。
 次に、その土地で流行の可能性のある疾患、感染の可能性のある疾患について予防接種の種類が旅行者に対して選択される。その地域の状況のみならず、旅行者自身の現地での生活様式、滞在期間などによっても対象となるワクチンの種類あるいは優先順位が異なってくることは言うまでもない。
 1〜2週間ほどの観光旅行程度の海外旅行であるならば、慌てて幾つもの予防接種を行うことは通常ないが、少なくとも海外に小児を連れて行くときは、通常行っておくべきワクチン(予防接種法による定期接種)くらいは日常の中できちんと接種しておくことが必要であり、旅行社などもこの点一言添えて頂きたいものである。親の都合の日程で、無防備のまま小さい子どもを海外に連れ出すことは、危険ですらあることを強調しておきたい。
ワクチン接種方式の違い(表5)「郷に入っては郷に従え」:例えば麻疹であれば、9か月から接種開始の国があったり、2回接種方式を採用する国も増えてきている。DPT、DT、Tの追加接種方式なども国によってさまざまであり、日本方式がスタンダードというわけではない。このようなとき、特に長期滞在者に関しては渡航後には現地で採用されている接種方式に切り替えた方が有利であろう。一方滞在が比較的短期であったり、あらかじめ帰国予定の頃がほぼ予想されるのであれば、帰国後に日本方式に適応できるよう、渡航後も日本の接種方式を続けるように勧めている。ただし実際に滞在が長期にわたってくれば現地での生活にも慣れ、予防接種についても必然的に現地方式を取り入れることに抵抗はそれほどなくなってくることが多い。不安を感じるのは特に出発前と到着後のしばらくであることがほとんどである。ただし、いわゆる先進国へ出かける場合と、途上国へ出かける場合では事情は異なり、かなり柔軟に考える必要はある。
日本に帰国してのワクチン追加:渡航後に比較的長い一時帰国の機会がありそうな場合には(特に途上国からの一時帰国者に対し)、そのときを利用して日本で追加ワクチン接種を行うようにすることも一方法である。日本脳炎、DT、破傷風、A型肝炎、B型肝炎などがそれに相当することが多い。


表5 日本と海外接種時期・回数の違い
日本 海外
BCG 生後6か月まで 出生時1回、またはなし
ポリオ 生後3か月より2回 生後2か月頃より3〜4回
DPT 生後3か月より4回
(p:acellular─無菌体百日咳ワクチン)
生後2か月より3〜4回
(p:whole cell─全菌体ワクチンも多く使用されている)
DT 中1頃に追加 4〜6歳でDT、思春期頃にT追加などさまざま
 麻疹  1歳より麻疹単独1回
(12か月〜1年3か月を標準とする)
早期接種(生後9か月、1歳など)
同時接種(MMR)
追加接種(4〜6歳または思春期)
追加同時接種(MMR)などさまざま
HB HB/HBIG(対象限定) 出生時より3回(全新生児)